日本の労働関連法規(労働組合法、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労災保険法、男女雇用機会均等法、派遣労働法など)は、当然のこととして、外国人労働者に対しても日本人労働者と同じように、平等に適用され、労働保護の恩恵をうけることになっている。
それでは、なぜ、外国人労働者には日本人労働者と比べて、権利侵害が多発しているのであろうか。その要因として次のことが考えられる。
このような困難で孤立した状況にあって、外国人労働者の権利をまもり、権利侵害があればそれを回復するにはどうすればよいのであろうか。
第一に、労働保護関連法規の存在とその内容を外国人労働者にくまなく知らせる取り組みが必要である。大きな作業をともなうが、保護法規の内容と解決方法(権利実現方法)について、日本に多くいる外国人労働者の母国語で(韓国語、中国語、ポルトガル語、スペイン語、英語、タガログ語、ロシア語など)、案内・紹介する取り組みが求められている。
第二に、なるべく身近に相談できる団体、地域労組(local union)=合同労組、協会、コミュニティー(母国商店、母国食堂など)を組織し、事件が発生すると組合メンバー、弁護士が始動できるネットワークづくりを進めるべきであろう。
第三に、日本政府に対して、不法就労の多数の存在を国際競争力強化に悪用する政策をやめること、事業主・使用者に保護法規をまもるように指導を強化し、違反すれば罰し事業停止処分できるように労基法を改正すること(近年、法令をまもらない事業主が規制緩和でつくられているような気がする)、労働条件をまもる取締り・監督行政を強化することを強力に働きかけることである。
日本にどれくらいの外国人労働者がいるかをみておきたい。厚生労働省や法務省の統計によると次の通りである(2006年段階)。専門的・技術的労働者(大卒留学生や風俗従事者が大半)18万人、定住者(主に日系人労働者で、中国人、フィリピン人に増加がみられる)37万人、技能実習生(研修生含む)9万5000人、留学生のアルバイト(許可された資格外活動)11万人、不法残留者17万人などで合計92.5万人である。
外国人労働者の数は、政府統計をみるとあまりにも少なく、韓国・朝鮮籍や配偶者等、不法就労の実態をみると、200万人をこえており、労働力人口の約5%を占めている。
ここで日本的特徴をみておきたい。まず、第一に日本の外国人労働者は、他の先進国と比べても、合法就労が圧倒的に少なく、不法就労が大半を占めている。第二に、雇用形態をみると、直接雇用が益々減少し、間接雇用が急速に増大している。これは、派遣、請負が増加していることを意味しており、送り出し国と受け入れ国である日本との間で、違法派遣や偽装請負をもたらすブラックマーケットが存在していることを示している。第三に、間接雇用による就労は、ピンハネ、サービス残業、最賃法違反の時給、パスポートの取りあげ、罰金制度などの劣悪な労働条件で働かされている結果となっている。第四に、合法滞在・合法就労のなかでも、風俗産業の外国人女性労働者と研修生の問題がある。女性労働者は、実際上人間扱いされず、売春を強要され、タコ部屋(不衛生過密な居住場所)に住むなど奴隷労働を強制されている。研修生は、2002年に比べ2倍以上に増加し、2006年では7万519人となり、JITCOの統計では2006年で9万2000人強にまで増加している。
このような外国人労働者の構成やひどい実態は、自然に生じたものであろうか。絶対に、このことは自然現象ではない。正確にいうならば、日本政府の政策と法によってつくりだされたものである。日本政府は、外国人労働者政策として、単純労働者排除・不法就労防止・単純労働の部分開放・少数の合法就労受け入れという四つの要素の政策を採用している。この結果、全体の10分の1に満たない合法就労外国人(10万人強)を受け入れ、部分開放として日系人労働者と研修生を受け入れ、不法就労外国人の就労・権利侵害実態を野放しにするというきわめて御都合主義的な政策を、日本政府はとりつづけている。また合法就労外国人といえども、日本の非正社員・間接雇用の増加のなかにあって、日本人に比べて優遇されている状況にないことも断っておく。
(大阪経済法科大学教授 村下 博)